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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)2584号 判決

原告

山田修

被告

箕面市

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金三八万八七〇〇円を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第一項につき、仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六三年七月四日午後五時三五分ころ

(二) 場所 箕面市西小路五丁目二番先路上(以下、「本件事故現場」という。)

(三) 事故車 自動二輪車(大阪ら三三七九号)

右運転者 原告

(四) 態様 原告が、事故車を運転して本件事故現場の道路(以下、「本件道路」という。)を東から西へ進行中、原告と同一方向に並進していた普通乗用車が、事故車に向け幅寄せをして接近してきたため、原告は、同車との接触を避けようとして本件道路の南側(左)端に沿つて設置されたL型街渠上で事故車を停止させ、右足で事故車を支えようとしたところ、同所が幅八〇センチメートル、長さ三メートルにわたつて陥没し、L型街渠に比べて約五センチメートル低くなつて段差(以下、「本件段差」という。)を生じていたため、バランスを失い、右足で事故車を支えきれなくなつて転倒した(以下、「本件事故」という。)。

2  責任

被告は、本件事故現場の道路の管理者であるところ、本件事故現場には前記のとおりの陥没が生じたまま放置され、道路として通常有すべき安全性が欠けていたものであり、右瑕疵によつて本件事故が発生したものであるから、国家賠償法二条一項に基づき、本件事故によつて原告に生じた損害を賠償する義務がある。

3  損害 三八万八七〇〇円

原告の所有する事故車が、本件事故により損傷を受けたので、原告は、事故車の応急の修理を業者に依頼し、修理代として二万四〇〇〇円を支払つたが、さらに完全に修理するためには三六万四七〇〇円が必要である。

よつて、原告は、被告に対し、本件事故による損害賠償として、三八万八七〇〇円の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、本件事故現場のL型街渠と本件道路との間に段差があつたことは認めるが、幅八〇センチメートル、長さ三メートルにわたつて陥没して段差が生じていたとの点は否認し、その余の事実は不知。

右段差は数ミリメートル程度のもので、ごく一部において最大で約五センチメートル低くなつていたにすぎない。

2  同2のうち、被告が本件道路の管理者であることは認め、その余は否認する。

本件事故当時、被告は本件道路につき、毎日パトロールを行い、道路の陥没、ひび割れ等を発見し、危険性があると判断したときには、遂一応急処置や補修工事を実施していたが、本件事故現場付近におかて危険性を認知したことはなく、本件道路の利用者から危険性を指摘された事実もなかつた。本件事故現場付近でアスフアルト舗装部分がL型街渠よりも低くなつて若干の段差が生じていたのは事実であるが、これは地盤の支持力の不均一性またはアスフアルトとコンクリートの耐性の相違によるもので、回避し得ないものであり、その程度も道路の機能上通常許容される範囲内のものである。加えて、右段差があつた場所の本件道路は、直線で交差道路等もなく、歩道との間には植樹帯が設置されていて車両が歩道部分へ出入りすることは不可能であるので、車両がL型街渠上に進入する必要は全くない。

以上のとおりであるから、本件道路が通常有すべき安全性を欠いていたとは到底いえない。

3  同3は不知。

三  抗弁(過失相殺)

仮りに、本件道路に陥没ないし段差があつたことが瑕疵に当たるとしても、原告は、転倒する約二四・五メートル手前で接近してくる後続車に気付いていたのであるから、速度を落として右後続車に道を譲り、後続車を先行させ安全な状態になつてから進行することも、また、両足で着地しうる余地を残して停止することも十分可能であつたにもかかわらず、左足を地面につける余地ないところまで走行したうえ停止しようとし、さらに停止に際し、着地のために右足を出すのが遅れたか、あるいは事故車の整備不良等の他の原因によつてハンドルがとられた可能性もあり、いずれにしても、本件事故の発生については、原告にも過失があつたというべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  成立に争いのない甲第一号証、第八号証、乙第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二号証、第六号証、本件事故現場付近を撮影した写真であることに争いがなく、弁論の全趣旨によりその撮影日は平成元年六月二六日であると認められる検甲第一号証の一ないし三、弁論の全趣旨により昭和六三年七月二〇日に本件事故現場付近を撮影した写真であることが認められる検甲第二、第三号証、本件事故現場付近を昭和六三年一一月二二日及び同月二三日に撮影した写真であることに争いのない検乙第一号証の一ないし三、証人芝山邦雄の証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  本件事故現場は、箕面市内を東西に走る総幅員二二・五メートルで車道は片側各一車線の都市計画道路中央線と呼ばれる箕面市道の西行車線上であつて、同車線にはアスフアルト舗装の走行車線の南(左)側に幅約五〇センチメートルのコンクリート製L型街渠が設置されており、その南側には植樹帯を隔てて自転車道及び歩行者道となつている。

2  本件事故現場付近は、昭和五九年三月に改良工事が完成した道路であるが、本件事故当時、事故現場付近の西行車線の走行車線上に、同車線南側のコンクリート製L型街渠に沿つて幅約二メートル、長さ約五メートルにわたり北(道路中央)側及び東西両方向からゆるやかな勾配で沈下し、最も深いところで右街渠より約五センチメートル低い陥没(以下、「本件陥没」という。)を生じていた。

本件陥没は、道路の地盤の支持力の不足等から生じたものであるが、前記のとおり、ゆるやかな勾配による浅い陥没であつたので、走行中に一見した程度では陥没に気が付かず、その上を車両で走行してもシヨツク等を感ずることもなかつた。もつとも、陥没部分とその南側のコンクリート製L型街渠との間には、最大陥没深度の約五センチメートルには至らないが、若干の段差が生じていた。

3  被告は、その都市整備部道路課に八名の専従の職員を配置して日常的に市道の安全点検のための道路パトロールを行い、その結果、補修を必要すると判断された箇所については計画的に補修を行つているが、道路の損傷の程度等から通行上特に危険であると認められた箇所については直ちにバリケードを設置するなどして危険箇所の表示をし、請負業者に復旧工事を委託していた。本件事故現場は、市役所の近くで、パトロール隊が毎日の巡視の際に通行する箇所であつたが、通行上の危険性を認知したようなことはなく、また、市民などから本件陥没による危険性を指摘されたこともなかつた。

4  本件事故の二日後の昭和六三年七月六日ころ、原告から被告の道路課に本件陥没のために転倒した旨の苦情の電話があつたので、右道路課の職員が、現場の確認をしたが、本件陥没の沈下の程度が前記のとおりであり、通行上何ら支障がなく危険性はないと判断したので、直ちに補修工事をするようなことはしなかつた。しかし、その後、雨水が溜まり排水が悪いとの市民の苦情があつたのと、冬期に向かい、凍結による危険が生ずる可能性があると判断されたので、昭和六三年一一月二二日に、本件陥没の部分に平均して約三センチメートルの厚さのアスフアルト合材によるオーバーレイを施した。

なお、原告は、最初に被告の道路課に電話したときは、道路の陥没によつて生じた段差にハンドルをとられて転倒したと言つていた。

二  ところで、原告は、本件事故現場で普通乗用車に幅寄せをされてL型街渠上で停止し、右足で事故車を支えようとした際、本件陥没のためにバランスを失つて転倒したと主張し、原告本人尋問の結果中にこれに副う供述部分がある。

しかしながら、一で認定した事実によれば、本件陥没は、その深さが最大でも五センチメートル程度で、走行中に一見した程度では存在に気が付かず、その上を車両で走行してもシヨツク等を感ずることがない程度のものであり、L型街渠との間に生じていた段差についても、コンクリートとアスフアルトという材質の差から生ずるものであつて、この程度の段差はよくみられるものであるから、この程度の陥没ないし段差で原告主張のような事故が発生することは通常予想し難いことであるのみならず、原告は三十数年の単車の運転歴を有し、本件のような大型自動二輪車の運転歴も相当あり、これまでに本件のような転倒事故を起こしたことはないこと(この事実は原告本人尋問の結果により認める。)に、前認定のとおり、原告は、当初は段差でハンドルをとられて転倒したと申し出ていたことを合わせ考えると、原告主張のような態様及び原因で事故が発生したとはにわかに信用し難く、仮にそうであつたとしても、本件陥没及びこれによつて生じたL型街渠との段差が前記程度のものであり、しかも右段差は、原則的には車両の走行を予定していないL型街渠(本件事故現場の南側には植樹帯があるから、本件道路を走行していて左折のためにL型街渠上に進入することも予定されていない。)との間に生じたものにすぎず、コンクリートとアスフアルトとの材質の違いから生ずるある程度の段差は、よくみられるものであつて、予想し得ないわけではないから、L型街渠と走行車線との間に五センチメートル程度の高低差があつたとしても、通常は自動二輪車を運転する者がバランスを失つて転倒する危険性があるとはいえないと考えられる。

従つて、本件事故現場に本件陥没及びこれによつて生じた前認定のような段差があるからといつて、本件道路が通常有すべき安全性を欠いていたものとはいい難く、本件道路に設置又は管理の瑕疵があるとはいえない。

以上のとおりであるから、仮りに本件事故が原告主張のような態様及び原因で発生したとしても、被告に国家賠償法二条一項に基づく責任があるとはいえない。

三  以上の次第で、原告の被告に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇 二本松利忠 永谷典雄)

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